ここでは、法話をする上でのよくある問題点や疑問点を取り上げ、参考としていくつかの回答を掲載しています。
Question
Q.会所に着いてから法座に出るまでの間に、何をしておくべきでしょうか?
A1.話す場所を確認する
A2.音響に関する確認をする
A3.会所の方(ご住職など)に確認する事柄
A4.衣体を身につけ整える
A5.法話の内容を確認する
A6.法話のウォーミングアップをする
Answer
Q.法話の原稿は、話すとおりに全部作るべきでしょうか?
原稿を書くことによって、話の展開が飛躍している部分や不要な重複箇所が分かり、不適切な表現やわかりにくいところにも気づくことができます。これにより、法話全体の構成をしっかりと組み立てることができます。
とくに短い時間の法話は、論旨を簡潔明瞭にお話しする必要がありますから、思うよりも難しいものです。原稿を書くことをお勧めします。
また、一度お話した法話も、時間が経つと忘れてしまうものですが、原稿として残しておけば、法話のストックを着実に増やしていくことができます。
そして何より、原稿を作成することで、自信をもって法話に望むことができるでしょう。
なお、作成した原稿は、何度も繰り返し声に出して練習しましょう。
原稿とは別に話の要点を抽出したメモを作ります。一例ですが、メモには〈讃題〉〈テーマ〉〈キーワード〉〈引用文〉〈結勧の言葉〉を明記するとよいでしょう。
〈讃題〉には、聖典から選んだ讃題の文を正しく記します。
〈テーマ〉は、たとえば「摂取不捨の救い」のように、法話の内容を一言で表すタイトルのことです。たとえ講題として出さない場合でも設定しておくことで話が明確になります。また、その法縁とテーマとの関連もメモしておくと、スムーズに法義の話に入っていくことができます。
〈キーワード〉は、たとえば「摂取の左訓」「○○さんの体験」のように、話の内容を端的に表した言葉です。話しの順番に沿って並べることで、法話の流れを把握することができます。
また、○○さんに言われた一言、この話材で言いたい結論など、大事な内容についてはキーワードとともに書いておくとよいでしょう。
〈引用文〉は必ず記しておきましょう。聖典のご文を間違いなく紹介することができます。
〈結勧の言葉〉は法話全体の結論部分です。文章を練りましょう。たとえ話が途中で二転三転しても、結勧の言葉を用意しておくことで、讃題やテーマに相応しい終わり方ができます。
原稿とメモは両方作成するのがよいでしょう。
原稿を作成することは、法話準備の基本となる大切な作業です。ただし法話の際、原稿を頭で追うことばかりに意識をとられては、聴衆の方々の心に響く法話とはなりません。原稿を作成し推敲した上でメモにまとめ、法話の席にはメモだけを持って行くくらいがよいのではないでしょうか。
原稿やメモの作り方、使い分けは、経験のなかで自分に合った形ができていくでしょう。
Q.讃題にどの文を選んでよいのか分かりません。
法話の中心は、仏徳讃嘆にあります。その讃嘆する内容の主題にあたる部分を「讃題」といいます。讃題は、原則として聖典から選びますが、どのご文を讃題にするのかによって、法話の内容が必然的に決まってくるともいえます。長すぎたり、短すぎたりしないように、また聴聞の方にも親しまれているご文を選ぶといいでしょう。
「讃題の例と解説」では、讃題の具体例を挙げて解説を加えています。
解説のなか、「み教えのポイント」では教義上押さえるべき点を挙げています。「法話作成のヒント」では、法話の際に話すべきポイントを提示しています。
聖典を開くことを習慣にしたいものです。また、一冊のノートを作り、法座や書籍などを通して味わった聖典のご文を蓄積していくのもいいでしょう。
Q.法話の冒頭の導入をどうしたらよいでしょうか?
各種のご法縁がありますが、どのご法縁もその意義は仏徳讃嘆です。ご法縁の由来を紹介し、その意義が仏徳讃嘆にあることを確認することで、その仏徳について「本日は○○というテーマで…」「□□という視点から窺います」と移行していくことができます。
聴聞される方にも、この一座の話のテーマや視点が明らかになって、聞きやすくなるでしょう。
「いま一番大切なものって何でしょうか?」「私たちはいつまでも元気で生きていけると思っているのではないでしょうか?」など、誰もが考えさせられるような質問を投げかけることで、聴聞される方々に「?」という思いを持っていただければ、ご法義の話に入っていきやすいのではないでしょうか。
また、「阿弥陀さまってどんな仏さまでしょう?」「お聴聞しても、はっきりとわかったと言えない気がします。みなさんはどうですか?」など、教えに関する問いかけであれば、一気にご法義の話に入っていくことができます。
質問することで、聴聞される方とのコミュニケーションをはかることができ、法座の雰囲気も良好になることがあります。
「先日○○○ということを、お聞きしました」「子どものころ、□□□ということがありました」など、身近なエピソードから入ると、聴聞される方は自然と話に入っていけます。もちろん、単なる世間話で終わるのではなく、法話のテーマに結びつくエピソードである必要があります。
聴聞される方の多くが自分のことを知らない場合には、自己紹介から入るのも一つのやり方です。冗長になってはいけませんが、自分の特色(私には娘がいます)などをお話すると、聞き手との距離がグッと縮まることがあります。
また、その自己紹介が後に展開するエピソード(娘の話)の布石になっているとよいでしょう。
「お念仏を称えたから救われるわけではありません。」「信じたら救われると思っているのは大間違いです」「懐かしい故人に会うためにお浄土に参るのではありません」など、ご法義に関して誤解しそうなポイントを突くことによって、法話を聴聞する集中度が高まります。
Q.会所に着いてから法座に出るまでの間に、何をしておくべきでしょうか?
法話をする場所を直接確認しましょう。以下のような事柄を確認しておくとよいでしょう。
講演台や高座など、話す場所の確認
御文章箱の有無と、拝読の御文章の頁を確認
時計の有無や位置の確認
黒板の有無の確認
入退出の経路の確認
お寺が会所の場合は、到着してまず本堂の御本尊にお参りしますので、その時に確認しておくとよいでしょう。
音響効果は会場の広さや人数によって左右されます。
マイクがあるなら、使い方を確認しておきましょう。胸元につけるピンマイクなどは、出座するまえに装着しておくとよいでしょう。
また、法話を終えた後はスイッチを切ることを忘れずに。
ご法縁の確認をしましょう。特別な由来があることもあります。
一席か二席か、休憩に要する時間、終わりの時間などを確認しましょう。
法話の後、「領解文」の出言や「恩徳讃」の斉唱があることが多いので、どこでご一緒するのかを確認しましょう。
- 足袋や襟元が汚れていないか
- 破れたりほつれたりしていないか
- 透けていないか(夏用の場合)
- 事前に衣体の確認をしましょう。
- 襟元はみだれてないか
- 下着が見えていないか
出座前には余裕をもって衣体に着替え、整えましょう。
讃題の文を確認します。
法話の流れを確認しましょう。
引用のご文や話材などの確認をしましょう。
結勧がもっとも大切です。確認しておきましょう。
声を出して、喉の調子を整えましょう。
讃題の文を繰り返し声に出すとよいでしょう。
話し出す最初の言葉(挨拶やご法縁の説明など)を、実際に口にかけておくとよいでしょう。
姿勢を正し心を静めて出座しましょう。
Q.前席と後席の二席の場合、話の構成をどうしたらよいのでしょうか?
前席では、讃題から始まって法義説と続きますので、少し筋道を明らかにした論理的な傾向の話になることが多いようです。後席はその法義の内容を情感豊かにお取り次ぎすると、お聴聞している者として、聞きやすいようです。
後席の最後だけでなく、前席の最後にも少しまとまるような話し(事例)を用意しておくとよいでしょう。前席だけでも味わえる法話となるように御讃題に立ち戻って中まとめをします。
休憩の間に話が分断されてしまわないように、前席と後席をつなぐ配慮をしておくとよいでしょう。たとえば、前席の終わりに後席の話の予告をして、期待してもらうようにするのもよいでしょう。
また、後席の最初に、前席の話を簡単におさらいするのも一つのやり方です。前席の話が多少ぶれてしまった場合にも、後席の最初に整理することで、前後のつながりが見えてきます。
Q.どうしても緊張してしまいます。
自分だけが緊張してしまうと考えるのは誤りです。誰でも法座に立つときは緊張するものです。むしろ適度な緊張を保つほうが、聴聞の方にも誠実さが伝わり、よいのではないでしょうか。
浄土真宗は阿弥陀さまのお救いです。法話をする私が他者を救うわけではありません。お救いになるのは阿弥陀さまですから心配はいりません。
聴聞の方に聞かせるのではなく、阿弥陀さまに「私は阿弥陀さまのお救いをこのようによろこんでいます」と自身のよろこびを吐露する気持ちで臨むといいでしょう。
力む必要はありません。自身がよろこんでいることをもって、精一杯の仏徳讃嘆をさせていただくばかりです。
法話の内容に自信がなければ、不安から緊張してしまいます。何を話したいのか(テーマ)を明確にし、讃題から結勧までの話の段取り(構成)を整理しましょう。
また、話材についても吟味しましょう。一つひとつの話材が、法義のこの部分を的確に表しているということに自信を持てることが大切です。十分に内容を練りましょう。
たとえ法話原稿ができても、口にかけて練習していなければ、やはり自信を持つことができずに緊張してしまいます。
繰り返し口にかけておけば、頭のなかで話を追うことに意識をとられずに、余裕をもってお話することができるでしょう。
自然と言葉が出てくるほどに口にかければ、話のリズムもよくなり、聴聞の方との一体感も生まれやすくなります。
「こんな話をしようと思うのだけど、どうだろう?」と身近な人に法話の構想を聞いてもらいましょう。
家族や友人など、率直に指摘してくれる人に聞いてもらうのがよいでしょう。
準備の段階で、聞き手の立場からの感想や意見をもらうことは、本番になって慌てないために大切なことです。
Q.時間が持たないのですがどうしたらよいでしょうか?
法座には初めて教えを聞く方もおられます。「これくらいはみんな分かっているはず…」と思わず、法義の内容一つひとつを、端折らずに前提のところから話しましょう。
例話やエピソードなどの話材は、内容や結末だけでなく、詳しく具体的に話しましょう。
話の本質に関係ないことを長々と話す必要はありませんが、その場の雰囲気や場面が目に浮かぶように工夫するといいでしょう。
結勧は、法話のまとめとなる大切な箇所です。本説で展開してきた話が、法話のテーマを明らかにしていることを丁寧にお話しましょう。
例話をもう一度思い出してもらえるように、ふりかえるのもよいでしょう。
また、讃題の文にもどることを忘れずに。讃題の文の上であらためて仏徳を讃嘆しましょう。
決められた時間をもたせるためだけに、ダラダラと話をしているのは、お聴聞していても辛く感じます。
テーマや結勧を話すことができたら、時間前に終わっても、お聴聞させてもらっている方は違和感ありません。
Q.時間内に終われません。どうしたらよいでしょうか?
会所の都合や、ご法縁のプログラム、帰宅の交通の便などの都合もありますので、決められた時間はなるべく守りましょう。
時間を延長して長々と話をされても、お聴聞している方としては、もはや心ここにあらずです。
テーマを曖昧にしていますと、話の最後がうまく結べません。テーマを絞って「今日は浄土真宗のご法義のなかでも、○○のお話をご一緒にお聞かせいただきました」など、明確に結べるようにしておきましょう。
また、たくさんの例話を紹介する必要はありません。とくに10分などの短い法話の時には、例話や話材は一つに絞りましょう。
行き当たりばったり、思いつき、準備不足で法話を始めることなど言語同断ですが、曖昧なまま話し始めると、終われなくなることがあります。
きっちりと全体の流れを組み立てる、法話原稿を再編集するなど準備をしましょう。
法話の冒頭の前置きが長すぎませんか?
自己紹介やご法縁の説明などに時間を費やして、時間がなくなってしまうということがよくあります。
お聴聞している方としては、ご法義を聞きたいのですから、すぐに本題に入るのもよいでしょう。
結勧の話を決めておくと、残り時間を勘案して、話を結びやすくなります。
話が途中で右往左往しても、法話のテーマに戻ってくることが容易になります。
Q.法話が解説調になってしまいます。どうしたらよいでしょうか?
話材が説得力や迫力を持つのは、実体験が一番です。あなたの体験したことを通して、法義を語りましょう。
たとえば「夕陽を眺めてお浄土を思う」ということを、あなたが感動した、あの夕焼けの場面を思い、何とも言えない懐かしく、心豊かな思いをもったことを語ってみましょう。
法義の味わいは一人ひとり異なります。若い方、人生経験豊かな方、男の人、女の人それぞれの味わいがあります。あなた自身がよろこんでいることを、話に盛り込んでみるとよいでしょう。
法義の理解が不十分だと、どうしても味気ない解説になりがちです。聖教の意図をくみ取り十分に咀嚼することが、自分の言葉で法義を語ることにつながっていきます。
たとえば「南無阿弥陀仏は如来さまのおよび声です」といわれますが、「如来がよぶ」「私がよばれている」とは、何を示そうとしているのか明らかにすることが大切です。
Q.法話の具体例が見つかりません。
聖教のなかにもさまざまな例話があり参考になります。
「例話の紹介」では、「浄土真宗聖典」「ジャータカ物語」「仏教説話」「近代説教史料」の項目に分けて、例話となる話材を紹介しています。
さまざまな方が、自身の経験談などいろいろな話材でもって、ご法義を味わっていらっしゃいます。自らの経験したことのなかに、そのコンセプトと共通することも多いはずです。
自身の経験に置き換えてみると、また違った一面も出てきて、話が具体的になります。
「譬喩一分(ひゆいちぶん)」といわれるように、たとえは法義の全体を示すものではありません。
たとえば「例話の紹介」の「近代説教史料」に紹介されている(4) 香木は、表に現れる喜びのすがたは違っても如来回向の信心は同じ一味の信心である、という法義の一面のみをあらわした例話です。
このように、法義の内容を絞り、今回の法話では法義のどの面を伝えたいのかを明確にすることで、それにあった例話が想起しやすくなります。
阿弥陀さまのお救いは、いまここに届いています。具体例は私の身の回りにあります。ただ、それに気付くことができていないだけです。
日頃から仏法をよろこぶ習慣をつけましょう。普段の生活の中から具体例は自ら見えてきます。
Q.癖の直し方を教えてください。
まずは、自分自身に具体的にどのような癖があるのかを知ることが大切です。
家族や友人など、率直に指摘をしてもらえる方に法話を聞いてもらって、言葉遣いや仕草などについての具体的な感想を聞くと良いでしょう。
実際に法話をする際に、音声や画像で記録して、後からそれを確認することも一つの方法です。記録したものを確認することは、客観的に自分の話を聞く貴重な機会となります。言葉遣いや仕草の癖はもちろん、話の偏りやわかり難さなど、内容の癖を確認することにも役立ちます。
誰しも何らかの癖はあるものです。癖が良い個性として受け止められることもありますから、躍起になって癖を直す必要はありません。ただし、自分の癖を確認して、聞く人がどのように感じているのかを確認しておくことは大切なことです。
Q.法座依頼を受けた時に必ずしておかなければならないことはありますか?
日時・場所・法座の種類・衣体について確認しておきましょう。また、法座の由来・法座の次第・講題の有無・どのような方が聴聞されるのかについてお聞きしておくと良いでしょう。
手紙などの書面で返事を出しましょう。日時・場所・法座の種類の確認、交通手段・到着時間などをお知らせすると良いでしょう。また、こちらの緊急連絡先をお知らせしておくと安心です。
依頼を受けた時は、予定を確定させてお引き受けいたしましょう。こちらの都合で変更することはつつしむべきことです。
Q.法座の後にしておかなければならないことはありますか?
できるだけ早い時期に法話の反省をしましょう。讃題 ― 序説(導入)― 本説(法義説 ― 比喩・因縁)― 結勧(合法)の構成順に、一つひとつの内容を追いつつ振り返ると、具体的な反省点が出てきやすくなります。
また、音声や画像で記録をしておくと、より細かな点を確認することができます。
法座の場所・時間などの諸情報、お取り次ぎさせていただいた内容などの記録をしておくことは大切です。なるべく長期間保存できるような媒体に記録しておきましょう。布教伝道の貴重な資料になります。
お取り次ぎのご縁をいただいた依頼者に対して、なるべく早い時期に電話や書面にてお礼を申し述べておくと、より丁寧で良いでしょう。
Q.年回法要での法話の注意点を教えてください。
法話は仏徳讃嘆です。阿弥陀如来のお慈悲を、今ここにお参りされている方々とご一緒に聞きよろこびましょう。
故人との思い出や、故人の法名など、故人と関連する事柄を法話の話材とすると、参列されている方々も親しんでお聴聞することができます。
自分にとって故人との関係が深くない場合であっても、年回法要の参列者の多くは、法要のご縁である故人の身近な方々です。法話の内容が故人と具体的にどのように関わっているのかを明確にすると良いでしょう。
年回法要の参列者には、他宗教、無宗教の方々など、様々な価値観の方が参列されていることに配慮しましょう。何の説明もなく、浄土真宗に独自の表現をすると、耳慣れていないため、意味が通じなかったり、誤解をして受け止められることがあります。できるだけ、噛み砕いたわかり易い表現をすることが大切です。
ただし、浄土真宗のみ教えを伝えることが肝要であることは言うまでもありません。言うべきことはきちんと伝えましょう。